陸上競技の“裏方”に密着─大会運営スタッフのリアル

■ スタートラインの10時間前、誰がいるか知っていますか?

陸上競技の大会。
拍手、歓声、記録の更新──そのすべてが「舞台」のように輝いて見える瞬間。
しかし、その舞台を“ゼロ”からつくっている人たちがいます。

それが、大会運営スタッフです。

彼らの仕事は、選手のように記録が残るわけでも、観客のように楽しめるわけでもありません。
それでも、走ることの素晴らしさを誰よりも信じている人たちなのです。


■ ある地方大会、前日の朝6時

「今日、雨降るかな…」
天気予報とにらめっこしながら、グラウンドのラインを引くスタッフ。
スタンドに設営される仮設テント、備品の搬入、トイレのチェック、表彰台の準備──すべて人力。

一人ひとりのスタッフが手にするのは、バトンではなくトランシーバーと工具


■ スタッフは、走らない。でも常に「走ってる」

陸上大会の運営には、驚くほど多くの役割が存在します。

  • 競技進行班(フィールド審判、トラック招集、計測)
  • 設営班(器具設置、看板、動線確保)
  • 広報班(写真撮影、記録速報、SNS対応)
  • 救護班(AED設置、熱中症対策)
  • 観客対応班(チケット確認、誘導、アナウンス)

彼らはすべての選手の「記録の裏側」で、常に動いている存在。
スタートピストルが鳴った瞬間、実は裏でも100の動作が同時に動き出しているのです。


■ スタッフの一日を追ってみた

5:00 集合・準備開始

現場入り、当日の配置確認。チームで円陣を組んで気合いを入れる。

7:00 機材・備品チェック

風向計、ストップウォッチ、写真判定装置…ミスが命取りになる機材の調整。

9:00 大会開始

選手の誘導、アナウンス、各競技の準備に奔走。ミスは許されない緊張感。

12:00 昼食(交代で10分ずつ)

グラウンドの片隅でパンをかじる。日陰はない。暑さとの戦い。

15:00 表彰式・記録速報

メダルの確認、賞状の読み上げ、写真撮影。選手の笑顔に、心がほどける。

17:00 撤収開始

「すべてが夢のようだった」と思いながら、また荷物をトラックに運ぶ。


■ 名もなき“記録の支援者たち”

特に学生ボランティアや地域スタッフは、報酬もわずかだったり、無償だったりすることも珍しくありません。

でも彼らは言います。

「誰かの0.01秒を支えられたことが、誇りなんです」
「あの子の笑顔を見たら、全部報われた気がした」

記録に残らない努力が、記憶に残る感動をつくっている。
それが、陸上というスポーツの本当の美しさなのかもしれません。


■ 今、大会運営に求められること

現代の大会運営には、以下のような新しい課題が増えています。

  • 🔸感染症対策(体温管理、動線分離)
  • 🔸環境配慮(ゴミ分別、使い捨て廃止)
  • 🔸デジタル化(リアルタイム速報、ドローン撮影)
  • 🔸働き方改革(長時間労働の是正、ボランティア保護)

「ただ支える」ではなく、“質”で大会の価値を高める時代に入っているのです。


■ あなたの知らない“英雄”が、今日も走っている

あなたが観客席で応援していたその瞬間。
あなたがゴールした瞬間。
スタンドの隅で、誰かがトイレットペーパーの在庫を確認していたかもしれません。

記録を支えるのは、靴の裏のグリップだけじゃない。
誰かの情熱と、見えない仕事があるからこそ、陸上は輝くのです。


■ 最後に──「大会をつくる」というスポーツ

運営とは、ひとつのスポーツです。
頭を使い、体を使い、気を使い、チームでゴールを目指す。

だからこそ、運営に関わるすべての人に、私たちはこう言うべきなのかもしれません。

「お疲れさまでした。そして、ありがとう。」

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