目次
【序章】それでも僕らは、走り続けた
努力は、報われないこともある。
どれだけ練習しても、勝てないことがある。
悔しさを噛みしめた夜も、何度あっただろう。
それでも、僕らは走り続けた。
陸上競技はシンプルだ。
道具に頼れない。言い訳もきかない。
タイム、記録、順位。
すべてが数字で突きつけられる世界だ。
だがその一方で——
その一瞬の数字に、人生すべてを懸けたような
“報われる瞬間”が、たしかに存在する。
これは、そんな10の「報われた努力」の物語である。
第1章:0.01秒が、世界を変えた
スターティングブロックに足をかけた瞬間、
僕の心拍は180を超えていた。
短距離100m。
9か月間、毎朝5時に起きてウェイトをこなし、
学校では机に伏してレストし、
夜はひたすら動画を見てフォームを修正していた。
結果——「11.04秒」。
自己ベストを0.01秒更新。
たったそれだけ?と言われるかもしれない。
でも、僕の世界は一変した。
「努力は、報われる」——それを体感した瞬間だった。
第2章:“B決勝1位”でも涙が止まらなかった理由
地区大会の決勝。
A決勝には届かず、B決勝へ回された。
正直、悔しかった。
でも、せめてB決勝では勝ちたい。
そう思って臨んだ。
スタート。
風を切る感覚。
最終直線でのラストスパート。
自分でも驚くほどの集中力。
ゴール——1位。
記録はそこまで良くなかった。
でも、ゴール後、気がついたら泣いていた。
それは、結果ではなく「努力が報われた」という確信から。
第3章:ラスト1周で声が届いた
5000m。
心が折れかけたラスト1周。
脚は重く、視界が滲んでいた。
「ラストいけるよ!」
観客席から聞こえたその声に、
僕はもう一度、脚に力を込めた。
その声の主は、1年前に引退した先輩だった。
僕の走りを、覚えてくれていた。
——報われる努力とは、
誰かの記憶に残る走りのことかもしれない。
第4章:ずっと補欠。でも、最後のリレーで見せた涙
3年間、1度もユニフォームを着ることがなかった。
でも、練習には誰よりも早く来て、誰よりも声を出していた。
最後の大会、メンバーのひとりが怪我で欠場。
監督が言った。「お前、いけるか?」
一瞬、心が揺れた。
でも、全力で「はい」と答えた。
リレーバトンを受け取ったあの瞬間、
仲間の声が背中を押してくれた。
そしてゴール後、初めてユニフォームで泣いた。
第5章:1cmの壁
走り高跳びで「160cm」がどうしても越えられなかった。
何度もバーを落とし、スパイクを投げた日もあった。
だが、ある朝、何気ない助言を思い出した。
「もっとバーを“超える”気持ちで跳んでみなよ」
試合当日。助走。踏切。浮遊感。
——越えた。
その瞬間、音が消えた。
涙が自然にこぼれた。
記録よりも、心が満たされていた。
第6章:君がくれたスパイクで、表彰台に立った
引退する先輩から、真っ赤なスパイクをもらった。
「お前なら、きっと飛べるから」
ずっと自信が持てなかった僕は、
その言葉に支えられて冬も走り続けた。
春の大会。
そのスパイクで跳んだ走幅跳びは、自己ベスト更新。
表彰台で、スパイクを見て、そっと呟いた。
「ありがとう。君の思いも、跳ばせたよ」
第7章:“辞めよう”と思った夜を、今でも覚えてる
怪我。スランプ。
SNSには仲間の活躍。
自分だけが取り残されている気がして、涙が止まらなかった夜。
「もう、やめようかな…」
でも、ふとノートに書いた一言があった。
「悔しさは、未来の燃料だ」
その言葉を信じ、リハビリを続けた。
半年後、タイムは元に戻ったどころか、0.2秒更新していた。
あの夜を越えたからこそ、今がある。
第8章:走る理由が“自分のため”に戻った日
周囲の期待。コーチの言葉。
「お前なら行ける」「勝てる」
いつしか“走ること”が“応えること”に変わっていた。
でも、ある日ふと思った。
「本当に、自分は走りたいのか?」
答えは「Yes」だった。
翌日から、景色が変わった。
風が気持ちよかった。
練習の一本一本が、喜びに変わった。
——報われるとは、自分に素直になることかもしれない。
第9章:負けたのに、満たされていた
地区大会の決勝。
4位。入賞には届かず。
だけど、不思議と心は穏やかだった。
「やりきった」感覚が、胸いっぱいに広がっていた。
努力は、勝敗を越える。
誰かと比べるものじゃない。
自分の中で超えていくものだ。
第10章:ありがとう、陸上
引退の日。
トラックを歩いて、静かに校門をくぐる。
風の匂い。夕焼け。
これが、最後の“陸上部”の日。
でも、心は不思議と晴れていた。
あの頃、全力で走った日々が、
僕に生き方を教えてくれた。
「努力は報われる」
——それは、結果ではなく、
「悔いなく生きた」と胸を張れる日々のこと。
【終章】走る意味、それは報われた“今日”にある
報われる努力は、
記録でも、勝利でもなく、
“やってよかった”と心から思えた瞬間にある。
泣いた日も、笑った日も、
全てが「報われるための物語」だったのだ。
——だから、今日も誰かが走り出す。
涙の先に、きっと、光があると信じて。