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「今日、何本ですか?」
部活のグラウンドで毎日交わされるこの言葉。
短距離でも長距離でも、練習メニューの“本数”は、まるでその日の「価値」を決めるように語られてきた。
- 「え、今日200m×10本?きっつ…」
- 「昨日、300mを20本やったわ」
- 「うちの顧問、“根性”重視だから100本インターバルとかあるよ(笑)」
まるで“多ければ多いほど偉い”という空気。
でも、それって本当に正しいのだろうか?
元全国レベルスプリンターが語る「走り込みの罠」
私は高校時代、全国大会出場経験のある短距離選手だった。
でも、正直に言う。走りすぎて、速くならなかった。
当時のメニューは、以下のようなものだった。
- 月曜:100m×10本(全力)
- 火曜:300m×5本+坂ダッシュ
- 水曜:200m×10本+体幹
- 木曜:補強
- 金曜:リレー練習+200m×5本
- 土曜:試合 or タイム測定
- 日曜:休み(と言いながら朝練)
速くなりたい一心だった。
でも実際には、シーズン後半になると疲労が抜けず記録が落ちた。
じゃあ、理想の「本数」っていくつなの?
ここで断言しよう。
理想の本数は、“目的”によって違う。
✅ スプリント能力を高めたいなら
→「質重視・本数は少なく、全力の出せる範囲で」
- 例:100m×3〜5本(間に十分な休憩)
- ポイント:1本ごとにベストパフォーマンスが出せるようにする
✅ スタミナをつけたいなら
→「400mや600mを数本、でも無意味な“連続走”はNG」
- 例:300m×5本(リカバリー3分)など
- ポイント:乳酸耐性を鍛えるのが目的
✅ 試合直前期なら
→「疲労を抜きながら感覚調整」
- 例:100m×2本(95%)+スタンディングスタート2本
- ポイント:無理しない。仕上げのイメージ確認。
「数より質」って本当だったんだ
練習の価値は、本数ではなく1本1本に込める意図で決まる。
ただ“走るだけ”では、どれだけ本数をこなしても「無意識の作業」になってしまう。
速くなるために必要なのは、
走り終えたあと「今日の1本は良かった」と心から思える練習だ。
部活でありがちなのは、疲れすぎてフォームが崩れ、
「疲れたフォームを何本も練習してしまう」こと。
それ、悪い癖を身体に染み込ませてるだけです。
【経験談】練習量を減らしたら、記録が伸びた
高校3年のインターハイ前。
思い切って「本数」を絞る作戦に出た。
- 週に3回の高強度スプリント(100〜150m)
- 1回のスピード持久(300mなど)
- 補強・フォーム確認を丁寧に
結果、5月末には自己ベストを更新。
インターハイでもベストに近いタイムで走れた。
部員たちが「もっと走らなきゃ」と焦る中、
自分の“疲労管理”と“調子の波”を信じられたのが大きかった。
顧問の意向 VS 自分の感覚
「本数は少なくてもいい」とわかっていても、
現場には**「走りこませたがる文化」**がある。
- 「去年の先輩は200m×10本を毎日やってたぞ」
- 「ラクしたら弱くなる」
- 「気合が足りない!」
でも、自分の体は自分にしかわからない。
記録を出すのは、顧問でも先輩でもなく、あなただけだ。
じゃあ、どうすればいいの?
✅ 提案:自分の“疲労度メモ”を毎日つけよう
- 練習後に1〜5の数値で疲労度を記録
- パフォーマンスとの相関を見る
- 「疲れてるときは走りすぎない」判断基準に
✅ 体感で「今日は2本で仕上がる」と思えたら、もう十分
- 練習を“こなす”のではなく“仕上げる”意識に
✅ 本数より「目的」を声に出そう
- 「今日の200mは、ラスト50mの維持力をつけたい」
- 自分の意図を言語化すると、練習の精度が上がる
まとめ|“少ない本数”でも速くなる時代へ
- 本数が多ければ良いわけではない
- 疲労の蓄積はフォームとメンタルを壊す
- 自分の感覚を信じて“引き算の練習”を
今、世界トップの選手たちは「効率の鬼」だ。
短い時間で、最大限の効果を出すことに全力を注いでいる。
私たちも、「がむしゃら」から「賢い努力」へ。
そうすれば、1日2本の全力疾走が、100本のダッシュより意味を持つことに気づくだろう。