目次
プロローグ
陸上の世界に咲く、一輪の花。速さを武器に、風と対話する女性がいる。田中佑美――その名を耳にしたとき、私たちはどこか心の奥底がくすぐられるような感覚を覚える。笑顔の裏に秘めた覚悟と、研ぎ澄まされたフォームの中に漂う美しさ。そのすべてが、見る者を魅了してやまない。
今回は、田中佑美というアスリートの内面に、深く、深く迫ってみたい。
幼少期:風とたわむれた少女
田中佑美の陸上人生は、意外にも“追いかけっこ”から始まる。 大阪の下町で育ち、いつも元気いっぱいに走り回っていた。誰かと競うのではなく、ただ風を感じたくて走っていたという。
“走るのって、気持ちいいんです。風が身体をすり抜けると、私の心まで洗われるような感じがして――”
そんな言葉を、今も彼女は笑って語る。
高校時代:花開くハードルの才能
関西大学第一高等学校に進学した彼女は、瞬く間に頭角を現した。
顧問との出会いが大きかったという。 「田中、君は“飛ぶ”才能がある。走るだけじゃなく、飛べる選手になれ」
その一言に背中を押され、彼女は100mハードルの道を選んだ。
インターハイ出場、そして決勝進出。表彰台には届かなかったが、彼女の走りには“風を操る感覚”があった。
大学時代:進化と苦悩
立命館大学に進学すると、周囲のレベルも格段に上がった。
記録が伸びない時期が続き、悩みとプレッシャーに押しつぶされそうになった。
そんなとき支えてくれたのは、同じチームの仲間たちだった。
「あなたのフォームは美しい。その美しさを、あなた自身が信じて」
この言葉が、田中佑美の技術を再定義した。
“ハードルって、ただ速く走るだけじゃないんです。リズム、呼吸、空中の感覚、すべてが音楽みたいに溶け合ってこそ、美しいフォームが生まれる――”
社会人として:富士通のエースへ
富士通に入社した彼女は、日本選手権やアジア大会を舞台に活躍を始める。
2024年、パリ五輪。女子100mハードルで日本代表として準決勝進出。
その映像は何度でも見返したくなる。美しい腕の振り、しなやかな跳躍、そしてフィニッシュラインを駆け抜けたあとの笑顔――
世界と戦える選手へと進化した、その証だった。
フォームの芸術性
田中佑美のフォームは、指導者たちの間でも“芸術的”と評される。
「無駄がない。なのに、優雅。彼女の走りは、見ていて気持ちがいいんです」
特に注目されるのが、ハードルに入る1歩前の“予備動作”。
他の選手が力で踏み切るところ、田中はまるで“吸い込まれる”ように跳ぶ。
これは、彼女が大切にしている“地面との対話”から生まれている。
心の支えは“努力は裏切らない”
彼女の座右の銘は「努力は裏切らない」――これは、父親から贈られた言葉だ。
“辛いとき、この言葉を思い出すんです。結果が出なくても、無駄じゃない。絶対に、自分の力になるって”
試合後のインタビューで涙ぐみながら語ったその瞬間、SNSは大きな感動に包まれた。
ファッション誌とのコラボ:新たな挑戦
最近では、ファッション誌とのコラボレーションにも挑戦。
競技ウェアではない彼女の姿に、ファンからは「まるで風の女神」と賞賛の声があがった。
「競技とは違う“自分”を表現するのも楽しい。だから、これからはもっと色々なことに挑戦したいです」
この言葉に、多くの若い世代が勇気をもらった。
おわりに:風とともに、未来へ
田中佑美という選手は、単なる“速いハードラー”ではない。
風と語らい、跳ね、微笑み、魅せる。
そのすべてが、スポーツの持つ美しさを体現している。
これからも彼女は、風とともに、私たちの心を打ち続けてくれるだろう。
田中佑美――その存在自体が、陸上界にとっての希望であり、輝きである。
🔶主な成績(100mH)
年 | 大会名 | 記録 | 順位 |
---|---|---|---|
2018年 | 日本ジュニア選手権 | 13秒40 | 優勝 |
2019年 | 関西インカレ | 13秒55 | 1位 |
2020年 | 全日本インカレ(大学対抗) | 13秒20 | 2位 |
2021年 | 関西学生選手権 | 13秒03 | 優勝 |
2022年 | 日本選手権 | 13秒01 | 3位(当時の自己ベスト) |
2023年 | ダイヤモンドアスリート認定 | ー | 日本陸連から将来を期待される選手に選出 |
2024年 | セイコーGGP横浜大会 | 12秒95(+1.2) | 自己ベスト更新・4位 |
2024年 | 日本選手権 | 13秒08 | 決勝進出・6位 |