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序章:走るという“狂気”の先にあるもの
マラソンは、もはや“走るだけ”の競技ではない。
「ただのスポーツでしょ?」
そう思った人が、この大会に足を踏み入れた瞬間、その認識は粉々に打ち砕かれる。
砂嵐に巻かれ、足元は灼熱の大地、飲み干す水は熱湯寸前。
それでも走る者たちがいる。
それが、「サハラマラソン(Marathon des Sables)」──世界一過酷と呼ばれる、地球上の極限レースだ。
第1章:サハラマラソンとは何か?
サハラマラソンは、モロッコのサハラ砂漠で毎年開催される約250kmにおよぶウルトラマラソン。
6日間で走りきるこのレースは、通常のフルマラソンの6倍以上の距離を、灼熱50℃の砂漠で完走しなければならない。
しかも──
荷物はすべて自分で背負う「自給自足」スタイル。
食料、水、寝袋、医療キット…。
荷物の重量は最大15kg。背中のザックが食い込むたび、体力と気力は削られていく。
完走率は毎年50~70%ほど。
つまり、半分以上の人間が途中でリタイアする。
それでも、人々はなぜ挑むのか?
第2章:挑戦者たちの素顔
「人生で一度、自分と向き合いたかった」
そう語るのは、サハラマラソンを2度完走した日本人女性ランナー、田村理沙さん(仮名・39歳)。
普段は都内の会社員。ジムで週3回走る程度だった彼女が、なぜ砂漠へ向かったのか。
理由は「離婚」だった。
「すべてが中途半端な人生でした。サハラで一人になることで、ようやく本当の“自分”に出会える気がした」
彼女は泣きながら、テントの中で乾いたパンをかじったという。
「でも、あの乾パンの味は、人生で一番うまかった」と笑う。
第3章:過酷の“その先”にあるもの
この大会の最大の敵は「気温」だ。
日中は50℃、夜は氷点下。
靴の中には砂、口の中も砂、目にも砂。
日焼け止めは焼け焦げる。靴下は数時間で穴が空く。
だが、この過酷さの中に“救い”がある。
参加者同士の助け合い、仲間意識、そして「走る」という本能がむき出しになる感覚。
ある参加者はこう語った。
「文明がない場所で、ようやく人間になれた気がした」
第4章:それでも走る者たちへ
2023年のサハラマラソンでは、66歳の日本人男性が完走した。
「孫に、“人生は何歳でも挑戦できる”って伝えたかったんです」と語った。
挑戦に年齢も経験も関係ない。
あるのは、「走る理由」だけだ。
サハラは、ただの過酷なマラソンではない。
それは、「人生のリスタートボタン」でもある。
結章:あなたは、何のために走る?
サハラマラソンの応募者数は、年々増加している。
中には「失恋を忘れたい」「会社を辞めたい」「何かを証明したい」といった理由も。
理由はどうあれ、走り出した瞬間、すべては自分との闘いになる。
ゴールの先には何があるのか。
それは、走った者にしかわからない。
だが一つだけ確かなことがある。
「自分を変えたいなら、足を前に出すしかない」