異色の経歴の持ち主も。 日本陸上界でいま注目すべき3人の女子選手

サニブラウン・ハキーム(フロリダ大)や桐生祥秀(日本生命)らの活躍で男子短距離界への注目度が高まっているが、一方、日本選手権で好結果を残した注目の女子選手もいる。

その筆頭は、大会2日目に世界選手権の出場権を掴んだやり投げの北口榛花(はるか/日大4年)だ。小中学生のころはバドミントンと水泳に打ち込み、小学6年の時にはバドミントンの全国大会で団体優勝を果たした異色の経歴を持つ。

北口は高校から陸上やり投げに転向し、3年で60m台を投げると、翌年には61m38の日本U20記録を樹立している。それ以降、記録が伸びずに足踏みが続いたが、今年に入ってチェコへ単身武者修行に行き、急成長を遂げた。5月6日の木南記念では、64m36の日本記録を出し、世界選手権参加標準記録(61m50)だけではなく、来年の東京五輪の参加標準記録(64m00)も突破した。

その後、「日本記録を出したあとは、思った以上に疲労が残った」と本人が話すように、ゴールデングランプリ大阪では60m00といまひとつの記録。それでも、日本選手権では1投目から62m68を出して好調な滑り出しとなった。

「1本目はいい感じだったのですが、そのあとの2回は記録を狙って力んでしまいました。左側に飛んでいたので、4投目からは真ん中より右側に投げることを意識しました」

こう話す北口は、4回目には63m68まで距離を伸ばしたが、実は、これまで使っていたメーカーとは違うやりを使っていたと言う。

「ちょっと硬めのやりで、高校の時と大学に入ってからも試したことがあるんですが、感じがよくなかったので使っていなかったんです。(今回は)後輩が頼んでいたのが届いたので、ちょっと遊びでやってみたらよかった」

北口は今後、自己ベストを超えれば東京五輪でのメダルも見えてくるが、まずは目の前にある世界選手権での目標をこう口にする。

「日本選手権の1投目で62mを投げられたのは価値があると思うので、世界選手権では、まず予選を通過して決勝に進むことを目標に、決勝では8位以内に残りたい」

注目選手の2人目は、100mハードルの木村文子(あやこ/エディオン)だ。木村は、今回の日本選手権では世界選手権参加標準記録の12秒98を突破しなかったものの、4月のアジア選手権優勝ですでに出場の権利を得ていた。そのアジア選手権でキレのいい走りを見せたあと、手ごたえをつかんだ木村はこう話していた。

「冬期はこれまでのようにアメリカで練習するのではなく、時差のないオーストラリアに行き、12年ロンドン五輪優勝のサリー・ピアソン選手(オーストラリア)と一緒に練習をしてきました。32歳の彼女の練習や考え方を知ると同時に、一緒に走ることでスプリント力もついた」

木村は、アジア選手権以降も13秒1台を連発。ゴールデングランプリ大阪ではシーズンベストを13秒11にし、6月2日の布勢スプリントでは追い風3.5mの参考記録ながら13秒01を出した。

こうして徐々に調子を上げて迎えた日本選手権。準決勝は向かい風0.7mの条件の中、「ちょっと意識しただけで身体がびっくりするくらい動いてしまったので、ハードルに足をぶつけてちょっと焦ってしまった」と苦笑する走り。寺田明日香(パソナグループ)に0秒09遅れの13秒24の2位で決勝進出を決めた。それでも、決勝では2台目前後からしっかりとリズムに乗って先頭に立つと、3人が0秒02差で争う大接戦を制して、世界選手権内定を決めた。

このレースで木村は、こんなことを考えていたという。

「私が初めて日本選手権の決勝に残ったのは大学4年だった2010年で、その時は13秒55での進出でした。今回は藤森菜那さん(明大)が私と同じように4年になって初めて決勝へ進んできましたが、準決勝では13秒43を出していました。そんな風に全体のレベルが上がっている中、(自分が)30歳を超えても一緒に走れているのはすごくうれしかった」

喜びを感じながら走った日本選手権で6度目の優勝を果たした木村は、今シーズン残りの予定についてはこう話す。

「少し休養を取ってからスプリント種目にも出てスピードをつけて、9月にヨーロッパに行って速い選手と一緒のレースを経験して世界選手権に臨みたい」

インビテーションで出場した17年世界選手権は準決勝に進んだが、そこでは最下位に沈んだ。今回は世界選手権でしっかり戦うことが目標だ。

3人目の注目選手は、100mでシーズン初戦から11秒54の自己新を出して注目されていた御家瀬(みかせ)緑(恵庭北高)。日本選手権では29年ぶりの高校生王者になり、今後の飛躍を期待させる走りを見せた。

御家瀬は、全道高校大会で短距離のほかに走り幅跳びにも出場した影響で疲労が残っていたこともあり「体調を合わせてくるのが大変だった」と、状態はいまひとつだった。

だが、決勝では追い風0.6mの条件の中、鋭い飛び出しでスタートダッシュが得意な土井杏南(JAL)とさほど差がない走りを披露。最後はしっかりと競り勝って、土井に0秒05先着して初タイトルを獲得した。

「優勝記録の11秒67は全道高校大会と同じでしたが、今のコンディションでこのタイムを出せたのはすごくよかった。これからの自信につながります。あまりプレッシャーにならないように楽しくやっていきたい」

こう話す御家瀬が次の目標とするのは、土井が持つ高校記録とU20記録の11秒43をインターハイで更新すること。それを実現できれば、停滞気味の女子短距離に活力を与えられるはずだ。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/rikujo/2019/07/03/___split_27/